字のない絵本
大人になってからあらためて絵本を読むようになると、文章でストーリーを理解してしまい、絵をみることをおろそかにしがちだなと感じることがあります。今回は絵を読んで味わう、字のない絵本を紹介します。
1冊目は、安野光雅/作『旅の絵本』です。
世界の国々を旅する全10作のシリーズ絵本です。第1作はヨーロッパ中部の田舎のまちを旅する様子が俯瞰で描かれています。見開きいっぱいの風景の中に人々の暮らしが細部まで丹念に描かれており、作者の絵を描く喜びまで伝わってくるようです。この絵本の中には西洋の名画があちこちに潜んでいて、探し絵としてそれらをみつけるのもまた楽しみ方のひとつ。巻末に答え合わせも兼ねた解説がついているのですが、作者も気づかなかったような指摘や発見を読者から寄せられるエピソードもあり、多くの大人を夢中にさせた名作です。
2冊目は、デイヴィッド・ウィーズナー/作『漂流物』です。
海に遊びにきていた少年が、浜辺に打ち上げられた古いカメラを拾います。中にはフィルムが入っており、写真屋に持ち込んで現像をしてみると、そこには私たちの知らない奇想天外な海の世界が記録されていたのです。次々、写真を眺めていくと少年は最後の一枚に、あるメッセージが託されていることに気がつきます。小学校にあがるともう絵本は卒業と思われがちですが、この魅力に気づけるのは小学校中学年くらいからだと思います。絵本好きはもちろんですが、活字を読むのが苦手という方へもおすすめです。
3冊目は、ガブリエル・バンサン/作『たまご』です。
地上に突如現れた巨大な卵。人々は最初それを恐る恐る遠巻きに眺めていました。孵化した卵の中身、それを取り巻く群衆、次々と卵を産み落としていく巨大な鳥。木炭と鉛筆で描かれた絵が、ページをめくるにつれて段々と不気味な印象を与えます。文章がないぶん、この絵本をどう解釈するかは読者に大きく委ねられています。卵は暗喩で、何かの象徴として描かれているのか…読み終えた後になにか問いかけられるような一冊です。
図書館の新刊コーナーにて、6月から一か月間、字のない絵本の特集コーナーを設置します。絵本は子どもが楽しむもの、字がないとどう読んでいいのかわからない…という方もこの機会にぜひいろいろ手にとってみてくださいね。
- 「旅の絵本〔1〕」<外部リンク> 安野光雅/作 (福音館書店)
- 「漂流物」<外部リンク> デイヴィッド・ウィーズナー/作 (BL出版)
- 「たまご」<外部リンク> ガブリエル・ヴァンサン/作 (ブックローン出版)
<外部リンク>
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