多様な愛のかたちを描いた本
"6月に結婚すると幸せになれる"という欧米発祥のジンクス「ジューンブライド」。その由来は、ローマ神話において結婚や出産を司る女神「ユノ」が6月の守り神であるからとされています。そこで今回は、多様な愛のかたちを描いた本をご紹介します。
1冊目は、村田沙耶香/作 米増由香/絵『ぼくのポーポがこいをした』です。
「にちようび ぼくの おばあちゃんが、ぼくの ぬいぐるみの ポーポとけっこんする。」という印象的な出だしの本作は、「恋の絵本」シリーズの一冊です。ふたりが恋人だと知った"ぼく"は、人間とぬいぐるみなんて絶対に変だと反対するも、家族は大賛成で結婚式の準備は着々と進み戸惑うばかり。おばあちゃんの恋はおばあちゃんのものと言われても納得できず、「きもちわるいよ」と言ってしまいます。けれど当の本人は、「でもね こいは へんなんだよ。へんになるのが こいなんだから」と笑っていて…。
読み手によって見え方が異なる結末ですが、お話の根底にあるのは"どんな恋をしても背筋を伸ばして生きていい"ということ。多様な価値観があるからこそ手に取ってほしい絵本です。
2冊目は、小川洋子/著『薬指の標本』です。
物語は、サイダー工場で薬指を怪我したことを機に退職した女性が、ひっそりと佇む標本室の扉をたたくところから始まります。ここにある標本は、骨格や昆虫の様なありふれたものではなく、家の焼け跡に生えてきた茸や作曲家の恋人が奏でる音色など、依頼者が持ち込んだ"二度と懐かしむことのない封じ込めたい思い出の品"。これら全てを管理・保管していく標本室の事務員になった主人公は、標本技術士の弟子(でし)丸(まる)氏から「毎日その靴をはいてほしい。」と、黒のピンヒールをプレゼントされます。言われた通りにしているうちに、この靴を履いたまま標本室で彼に封じ込められたいという感情が芽生え始め…。彼の盲目的な愛情表現に絡めとられていくマゾヒズムな様子は危うくもどこか耽美的で、著者の透明感のある文章に引き込まれます。
3冊目は、古市憲寿/著『アスク・ミー・ホワイ』です。
異国アムステルダムを舞台に、恋人に裏切られて臆病になってしまったヤマトと、いわれなきゴシップに疲弊し引退した元俳優の港が出会い、過去の傷を抱えながらも互いに惹かれ合っていく優しいラブストーリーです。繊細な心情描写と瑞々しい筆致で紡がれる二人の恋模様は、立場や性別に関係なく、人が人に恋をする純粋な気持ちの美しさを描き出しています。また、冬のアムステルダムの街並みや料理をするヤマトの日常が丁寧に描写されており、まるで映画を観ているような静謐な空気に満ちているのも魅力の一つです。作中の"完璧に理解し合うことが無理だとわかりながら、その状態に近付こうとする試行錯誤こそが、誰かを思い合うことなのだと思う。"という一文からも、ゆったりと進んでいく二人の愛の在り方が感じ取れます。癒しを求めている人や心に葛藤を抱えている人におすすめです。
今日ご紹介した本の他にも、甘いだけではない多種多様な愛にまつわる本があります。本を通して、とっておきの愛に出会ってみませんか。
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