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第四章:薄明かりの世界へ・・・走りながら考えよう!

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年3月1日更新

 暗闇でやみくもに走り出せば、小石や些細なくぼみにさえ足を取られて転んでしまうことがあり、慎重に歩くことが安全であった。しかし、光がさせば危険性は少なくなる。それでも時間があれば歩いても良いが、病院には98年度までの第四次経営健全化計画達成すなわち不良債務解消という足枷のため、時間は限られており、薄明かりの世界へ向かってとにかく走り出すことが必要であった。

職種別損益計算の試み

 医業収益・費用で表される病院経営評価は、かなりの部分が「ドンブリ勘定」的であり、病院が直面する問題の本質の個別的・具体的・体系的な解決方法は示せない。また、全員参加の病院経営を考えるとき、収益をすべて診療科(医師)に帰属させる診療科別損益計算では医師の経営に対する貢献度を示すことはできるものの、看護婦をはじめとした医師以外の職員には、彼等の貢献の度合いを目に見える形で提示することはできない。いくら職員の経営参画意識の醸成を謳ってみても、これでは十分な効果は得られない。当院では、従来の経営評価における「ドンブリ勘定」的発想を改め、病院運営に関わる様々な職種の経営への貢献度を共通の基準で評価し、日常業務の改善に役立て、「病院の発展に向けて各部門が何をなすべきなのか」という行動指針、ひいては病院将来計画策定の重要な基礎資料を提供するひとつの手段として職種別損益計算を試みている。
 まず、病院収益(費用)を技術料(人件費に対応)、薬品と医療材料などの材料販売料(材料費に対応)、と室料差額などの病院施設提供料(減価償却費や光熱費に対応)の三つに分類し、院長が各部門との調整を経て定めた案分率によって収益を各職種に配分している。例えば、胃内視鏡検査の診療請求額11,300円の医師への配分は80%の9,040円、看護婦と検査部は共に10%の1,130円とした。すなわち、従来の診療科別損益計算では医師のみの収益としていたものを看護婦や検査部にも配分する。費用に関しては、各部門固有の費用のみ各部門へ直課し、複数の部門にまたがる費用、あるいは配賦するのが難しい費用(減価償却費・光熱費・消耗品費・委託料)は共通費用として各部門へは配賦しない。各部門の収益から固有の費用を差し引いた利益で病院全体の共通費用を回収し、全体利益を生み出すわけである。当院は技術料で稼いでいるのか、薬価差益で生き延びているのか。あるいは、どの職種の技術提供料が病院に貢献しているのか。将来はどの職種の貢献に期待を寄せるのが妥当なのか。従来の経営分析では解からなかったことが見えてくる。

レントゲングラフ~患者の分布像と病院機能評価~

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レントゲングラフを表示します 一般に、患者数・診療単価・在院日数などの経営指標はその平均値で表現されるため、個々の患者の評価や、全体の分布像は把握できない。その解決のために考案したのがレントゲングラフである。縦軸に入院期間を表す一日当たりの入院時医学管理料を、横軸に積極的医療を意味する特掲診療料を配し、個々の患者について二つの因子をプロットすれば、その月に在院しているすべての患者の分布象を視覚的に捉えることが可能となる。左下の領域は医学管理料・特掲診療料が共に低い、言い換えれば長期の入院で積極的医療が提供されていない患者層で、社会的入院と考えることができる。その対比として右上の領域は二つの因子が共に高い、重症で特殊な検査・治療や緊急手術を必要としたことを意味し、急性期で高度医療を要する患者層といえる。さらに、左上の領域は急性期の疾患であるが比較的簡単な治療でよい軽症患者層を意味している。
 当院の方針である急性期医療を目指すためには、左下の社会的入院患者の在宅あるいは中間施設への逆紹介が必要であり、福祉部門との連携強化を推進すべき理論的根拠となる。提示したグラフは97年5月のものであるが、前年あるいは前々年と比較することで病院の目指すべき方向へ進んでいるかを明確に捉えることができる。実際、3ヶ月以上の入院患者数の占める割合は7月9日%と、前年同月の14.2%、前々年の23.2%に比べ明らかに減少しており、病院の方針通りの運営がなされていることが判る。

97年度経営状況~誇り高き職場へ~

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「経営指標の推移と健全化への取り組み」へジャンプします 新たな日常性の構築「かわらなきゃ」をモットーに全職員参加の病院経営を推進した結果、グラフに示されるように医業収支は93年度からは5年連続の黒字基調を維持し、97年度は2億30百万円の医業利益を得ることができた。医業収支は経常収支と違い、一般会計からの繰入金や国・県からの補助金を除外した収支であり、まさに病院単独の経営努力を反映している。この間、大々的な医療機器の整備や病院改築あるいは職員増員を図ったわけではなく、意識の変革のみで黒字に転換したといっても過言ではない。院長就任前年の90年度と97年度の比較をすると、医業収支:3億18百万円赤字/2億30百万円の黒字、医業収支比率:84.5%/108.0%、人件費比率:77.8%/52.3%である。公立病院は患者獲得競争に走ることなく、地域全体の医療の効率的提供体制整備への先導的役割を果たすべきである。当院では数年前から、病院機能にそぐわない社会的入院患者や軽症患者を地域の医療機関や老人保健施設などへ積極的に紹介しており、かかりつけ医との真の意味での連携強化を図っている。そのため、病床利用率は96、97年度は81.9%、82.5%と多少低下しているが、長期入院患者は激減し、平均在院日数は20.0日に短縮、逆に患者一人一日当たりの入院単価は全国平均に比べれば低いものの着実にアップしている。このことは、病床利用率は低くとも質の良い医療と経済性は確保できることを示している。「かわらなきゃ」の共通認識のもと基本理念の達成に向けて、グラフ下の表に示される職員意識の覚醒・医療レベルの向上と療養環境整備・地域への働きかけ・収支改善策の四つの健全化への全員参加での取り組みにより、91年度には約25億円にものぼった累積不良債務が97年度には約2億円にまで減少し、98年度には晴れて解消予定である。不良債務額全国ワースト一位からわずか数年で立ち直り、この5年連続医業収支黒字をもたらした市立病院職員は全国の自治体病院に誇れるものであり、病院の、いや坂出市役所の宝である。病院をさらに誇り高き職場とし、働きがいのある環境を整備していくことこそが、職員に対する院長の責務であると考えている。

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